インド市場への進出を検討している中小企業の経営者・海外担当者必見。ファクトリーオートメーション分野で実際にインドビジネスを展開する機械系商社の海外営業担当者による生の声をお届けします。
住友商事40年のベテランが語る「各国文化を理解した海外営業の成功法則」
はじめに:文化理解が海外ビジネス成功の鍵
海外展開において最も重要でありながら、最も軽視されがちなのが「文化理解」です。JETRO の2024年度調査では、海外進出企業の68%が「現地での人間関係構築」を最重要課題として挙げており、技術や資金力以上に文化的な理解が成功を左右することが明らかになっています。
今回は、住友商事で40年間海外営業に従事し、東南アジア・東アジアでの豊富な駐在経験を持つ矢内様に、各国の文化的特徴と実践的な対応策についてお聞きしました。天然ガス関連パイプから金属加工製品まで幅広い商材を扱い、現在も中国との輸出入事業を展開する矢内様の体験談は、文化の壁に悩む中小企業にとって貴重な指針となるでしょう。
プロフィール紹介
矢内様(やない様)
- 住友商事で40年間海外営業に従事
- 東南アジア・東アジアでの駐在経験豊富
- 現在:金属加工製品(ばね・ドアクローザー等)の輸出入事業
- 取引先:エクソンモービル等の大手石油会社から中国の製造業まで
中国 - 「謝らない文化」の向こう側にある義理堅さ
編集部:中国でのビジネスで最も印象的だった文化的特徴は何でしょうか?
矢内様:一般的に中国の方は「人に謝らない、譲らない」という姿勢の人が多いと最初は感じました。日本人の感覚だと、少し戸惑うこともあります。しかし、これは最初だけなんです。
仲良くなってきた後は全く違います。信頼関係を一度築けば、とても義理堅く、長期的な関係を大切にしてくれる。むしろ日本人以上に人情深い面があります。
編集部:具体的にはどのように信頼関係を築いていったのでしょうか?
矢内様:最も重要だったのは、約束を必ず守ることです。納期、品質、価格について約束したことは、どんなに困難でも実現する。これを繰り返すことで、相手も「この人は信頼できる」と認めてくれるようになります。
また、言語の壁も大きな課題でした。中国語は電話だと通じづらくて、重要な商談の際は必ず対面でお話しに行きました。中国の石油会社は各地に分散しているので、相当な移動時間と費用がかかりましたが、これは避けて通れない投資だと考えていました。
編集部:中国市場で成功するための文化的なポイントは?
矢内様:面子(メンツ)を重視することです。公の場で相手を批判したり、恥をかかせたりしないよう細心の注意を払う。問題があっても、まずは個別に話し合い、相手の立場を尊重しながら解決策を探ることが大切です。
現在扱っているドアクローザーの輸出も、中国側から「日本製の高品質なものが欲しい」という要望があって始まりました。彼らは日本の技術や品質に対して深いリスペクトを持っているんです。
マレーシア - 多民族国家の複雑な構造を理解する
編集部:マレーシアでの経験について教えてください。
矢内様:マレーシアは本当に複雑な国です。マレー人、中華系、インド系の人々が住んでいますが、国の政策はマレー人優遇的なものが多い。ブミプトラ政策というのがあって、マレー系住民を優遇する制度があります。
編集部:この多民族構造はビジネスにどのような影響を与えるのでしょうか?
矢内様:取引先を選ぶ際、政府系のプロジェクトではマレー系企業が有利になることが多い。一方で、中華系企業は商売上手で、技術力やネットワークに長けています。インド系は金融や法務に強い傾向があります。
重要なのは、どの民族グループがどのような強みを持っているかを理解し、プロジェクトの性質に応じて適切なパートナーを選ぶことです。また、異なる民族間での橋渡し役を果たすことで、独自のポジションを築くことも可能です。
編集部:実際のビジネスではどのような点に注意していましたか?
矢内様:宗教的な配慮が非常に重要です。イスラム教徒が多いので、豚肉やアルコールに関する禁忌を理解し、ラマダン期間中のスケジュール調整なども必要です。
また、各民族の祝日や慣習も把握しておく必要があります。中華系なら旧正月、インド系ならディワリ、マレー系ならハリラヤなど、それぞれの文化を尊重する姿勢が信頼関係構築につながります。
台湾 - 日本文化との親和性を活かした関係構築
編集部:台湾での文化的特徴はいかがでしたか?
矢内様:台湾は日本の文化と非常に似ています。はっきりと物事を言わない人も多く、「空気を読む」という日本的な商習慣が通用します。日本人には最も理解しやすい市場の一つだと思います。
編集部:日本との親和性が高いことのメリットとデメリットは?
矢内様:メリットは、お互いに相手の気持ちを察しながらビジネスを進められることです。長期的な関係を重視し、信頼をベースにした取引が可能です。
一方で、デメリットもあります。お互いに本音を言わないため、時として商談が曖昧になったり、問題が表面化するのが遅れたりすることがあります。
編集部:台湾市場で成功するためのポイントは?
矢内様:関係性(グアンシー)を重視することです。台湾では人とのつながりが非常に重要で、信頼できる紹介者を通じてビジネスが始まることが多い。展示会や業界イベントでの人脈作りは必須です。
また、日本ブランドへの信頼が高いので、「日本品質」をしっかりとアピールすることが重要です。ただし、価格競争力も求められるので、品質と価格のバランスを取ることが課題になります。
シンガポール - 多様性を活かした戦略的ハブ
編集部:シンガポールでのビジネス環境の特徴は?
矢内様:シンガポールは面白い場所です。中国本土ほど我は強くありませんが、競争は非常に激しい。たくさんの人種の方がいるので、付き合いの幅が広がります。
私自身もシンガポールでディストリビューター業務を行った経験があり、現在も多くの知り合いがいます。
編集部:多様性の高い環境でのビジネスのコツは?
矢内様:相手の文化的背景を瞬時に理解し、それに応じてコミュニケーションスタイルを変える柔軟性が必要です。中華系の方には効率性と利益を重視したアプローチ、インド系の方には論理的で詳細な説明、マレー系の方には関係性を重視したアプローチが効果的です。
また、シンガポールは東南アジアのハブ機能を果たしているので、ここを拠点に周辺国へ展開する戦略が有効です。
編集部:シンガポール市場特有の注意点は?
矢内様:政府の規制や政策変更への対応力が重要です。シンガポール政府は政策決定が早く、ビジネス環境が急速に変化することがあります。常に最新の情報をキャッチアップし、迅速に対応する体制が必要です。
また、人材確保が困難で人件費も高いので、効率的なオペレーション体制の構築が課題になります。
文化理解を深めるための実践的アプローチ
編集部:各国の文化を理解するために、具体的にどのような準備をされていましたか?
矢内様:まず、歴史を学ぶことから始めていました。各国の歴史を理解することで、なぜそのような文化や価値観が形成されたのかが分かります。
例えば、中国の面子文化は長い歴史の中で培われた社会システムですし、マレーシアの民族政策も独立後の政治的背景があります。
編集部:現地での実践的な文化学習方法は?
矢内様:現地の人々との食事を大切にしていました。食事の場では本音が聞けることが多く、ビジネスの表面的な関係を超えた理解が深まります。
また、現地のニュースや新聞を読む習慣をつけていました。その国で何が話題になっているか、どのような価値観で物事が議論されているかを知ることで、相手の考え方を理解しやすくなります。
編集部:文化の違いで失敗した経験はありますか?
矢内様:初期の頃は、日本的な「以心伝心」を期待して、明確な指示を出さずに仕事を依頼したことがありました。結果的に期待とは異なる成果になってしまい、お互いにフラストレーションを感じました。
この経験から、文化が異なる相手とは、より明確で具体的なコミュニケーションが必要だということを学びました。
まとめ:異文化理解が生み出すビジネス成功
編集部:最後に、文化理解の重要性について総括していただけますか?
矢内様:異文化や多様な価値観を積極的に受け入れ理解する姿勢が、最も海外営業には大事だと思います。表面的な商慣習だけでなく、その背景にある価値観や歴史を理解することで、より深い信頼関係を築くことができます。
40年間の経験を通じて感じるのは、文化の違いは障害ではなく、むしろビジネスの機会だということです。相手の文化を理解し、それに適応することで、競合他社にはない独自のポジションを築くことができます。
編集部:中小企業へのアドバイスをお願いします。
矢内様:完璧な文化理解ができるまで待つ必要はありません。重要なのは、相手の文化を尊重しようとする姿勢と、学び続ける謙虚さです。
現地の言葉で挨拶をする、相手の祝日や慣習を覚える、食事に誘われたら積極的に参加する。こうした小さな努力の積み重ねが、大きな信頼関係につながります。
矢内様の40年にわたる海外営業経験から学べるのは、文化理解こそが持続的な海外ビジネス成功の基盤だということです。技術力や資金力も重要ですが、相手の文化を理解し、尊重する姿勢があってこそ、真の信頼関係を築くことができます。
これから海外展開を目指す中小企業の皆様も、まずは相手の文化を知ることから始めてみてはいかがでしょうか。異文化との出会いは、きっと皆様のビジネスに新たな価値をもたらすはずです。
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